遺体管理学

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クーリングの問題点






PAHO / WHOの遺体管理マニュアル の問題点

Pan American Health Organization / World Health Organization では、2006年に災害時遺体管理マニュアルと発行しました。
そして日本では、厚生労働省系である国立保健医療科学院の災害研究グループが中心となり、国立保健医療科学院が2012年2月に
翻訳文を公開しました。
PAHOおよびWHOはCDCと共に「世界でトップクラス」であり、書かれている内容や根拠には間違いがありません。
しかし、遺体管理の低温管理部分では2点の問題点が見られます。
翻訳した、国立保健医療科学院には遺体を専門とする指導者や研究者は存在しないために、これらの問題点には気が付かなかったと
考えられます。

問題点としては下記の2点です

1.遺体冷蔵温度(遺体を冷蔵庫で管理する条件)は2〜4℃
2.ドライアイスを使用する場合は、遺体の上にのせない(損傷する)




遺体冷蔵の条件


数学の様に「1+1=2」との明確な答えはありませんが、遺体冷蔵(冷蔵庫)の条件としては下記があげられます。
1.庫内温度は4〜6℃(7℃)であり、庫内各部の温度差が1℃程度の物(庫内最低温度は4℃)
  冷気(送風)が直接的に遺体に当たってはいけない(乾燥を亢進する)
2.庫内湿度は60%が基本であり許容値は55〜70%までであり、新生児や乳幼児に使用する場合は65〜70%
  高齢者に関しては、55〜60%でも良い
3.低温化であっても遺体表面に黴類(特に乾燥遺体でみられる)が発生するために、紫外線殺菌灯やオゾン発生装置
  は有効である

しかし、PAHO/WHO原書(国立保健医療科学院の翻訳文)では
「摂氏2−4度での冷蔵が最適である」と書かれており、湿度や送気に関する記載はありません。
4℃に関しては異論はありませんが、2℃に関しては疑問があります。

人体の組成の多くは「水」であり、年齢や体格、性別により体重当たり含有量は異なりますが、成人標準として60%と考えます。
そのために、皮下含有水分量も考慮して「遺体専用冷蔵庫内湿度は60%」と考えています。
人体構造は体液と筋組織、脂肪組織、その他の組織でありこれらの「各特性を考慮」しなければなりません。
水の氷点は0℃ですが、糖質や電解質を含む体液の氷点は0℃以下であり血糖値や電解質値により変動します。
筋組織は0℃以下(−1〜5℃程度?)ですが、脂肪組織は3〜4℃であり4℃以下では脂肪細胞組織が凍結します。

美容整形で痩身に使用する脂肪除去法(脂肪凍結融解機)は3〜4℃であり、脂肪細胞組織だけ凍結させて脂肪組織を減少させます。
低温化冷蔵遺体管理には冷蔵と冷凍はあり、より長期間にわたる管理が必要な場合はー30℃以上の超低温下での管理が有効です。
しかし、死後14日以内の管理であれば冷凍ではなく冷凍が有効であり、「凍る寸前の状態管理」が基本となります。
脂肪凍結は筋組織や他の細胞凍結よりも弊害は少ないのですが、「解凍時の変化」は確実に現れており死亡氷結温度まで遺体を
冷却することはお勧めできません。

ドライアイスや氷と異なり、細かいデジタル管理が出来る冷蔵庫では「凍結を避けることが最適」と考えられます。
そのために、遺体専用冷蔵庫及び冷蔵庫での遺体管理は「4〜6℃が最適」と考えられます。

ただし、日本や北米、欧州では遺体冷蔵が基本ですが、中国や台湾を始めとした国では遺体冷凍が基本であり、
これらの国ではー5〜18℃程度で冷凍されています。




ドライアイス使用方法


北米や欧州では遺体の冷却にドライアイスを使用することはほとんどなく、南米では入手が困難です。
アメリカでもドライアイスの入手は日本に比べ困難であり、アメリカ人はドライアイスを「スーパーで冷凍食品やアイスクリームを購入した
時に付いてくる保冷剤(小型のフレーク)」との認識しかありません。
しかし、日本は世界でも最もドライアイスを利用する国であり、その用途や使用方法に関しては「類を抜いています」

ドライアイスの製造は、工場から排出される二酸化炭素を回収して圧縮した方法であり、日本では工場排出量の削減(カーボンオフセット)の
ために、回収と再利用を行うために安価で容易に入手が出来ますが、アメリカでは状況が全く異なります。
京都議定書を見れば分かるように、アメリカ、南米、中国やロシア、発展途上国では二酸化炭素の排出制限や回収、再利用は
ほとんど行われずに大気中に二酸化炭素を排出しています。
そのために、ドライアイス製造コストが高い上に多量生産が出来ませんので、普及は難しく入手困難や価格問題が発生します。
しかし、日本では公害対策に対する考え方、対策が施されており、ドライアイスは入手が容易であり、安価で使用が可能です。
そのために、日本国内では「遺体管理方法としてのドライアイス使用が確立」されており、世界でも珍しい地区です。

確かに、ドライアイスは超低温であり「接触面とその皮下組織の凍結を引き起こす弊害」が発生します。
しかし、この凍結によりより深部の中心温度を短時間で低下させて、細菌の繁殖だけではなく酵素による自己融解(自家融解)を
抑制することが可能となります。
遺体の腐敗防止には「出来るだけ短時間で深部体温を低下させることが重要」であり、ある意味ではリスクを伴うものです。
特に、中枢性発熱や劇症型変化が予測される遺体では「時間をかけたクーリングは自滅行為」であり、直接冷却法が最も効果が高く
最終的な予後が良いことは否定はできません。

遺体の深部体温低下には時間を要し、冷蔵庫等の間接的方法では最低でも6時間は必要です
しかし、ドライアイスや蓄冷材等の「超低温素材」を直接使用すれば、15分以内に深部体温の低下が可能となります。

アメリカでは遺体に対して解剖やエンバーミングをすることを前提として考えており、「土葬遺体対応」が標準手法でもあります。
そのために、遺体の一部を冷凍させるドライアイスを嫌い、ドライアイスの直接使用を否定しますがアメリカ以外の国では
「アメリカの標準手法は通用しません」。
日本の火葬率は世界一であり、99.9%を維持し続けています
その反面に解剖率は低く推移しており、解剖率が高くて土葬率が高い(65%程度)のアメリカ方式を日本に押し付けることは無理があります。

マニュアルでは、「遺体20体を並べて、その周りにドライアイスで50センチの壁を作り、ビニールシートでテント状にする」と書かれています。
この方法では、1遺体に対して50〜100キロ程度のドライアイス(マニュアルでは1人10キロと書かれている)が必要であり、昇華速度の
早い方法であることから、最終的には1遺体当たり100キロ以上のドライアイスが必要と考えられます(3〜7日間保管とすると)。
それに反して、遺体の胸部と腹部にドライアイスを置く方法では10〜30キロ程度で十分であり、ドライアイスで冷蔵庫を造る方法よりも
「少ない物資でより多くの遺体を管理可能」であり、実践的です。

阪神淡路大震災、東日本大震災においてもドライアイス確保は困難であり、震災発生から3日以内は明らかな不足がありました
特に力のある被災地には集まりますが、力のない被災地にはドライアイスは来ません。
今回の東日本大震災では棺やドライアイスの買い占めが発生し、一部の葬儀業者は「笑いが止まりませんでした」。
そのために、仙台ではドライアイスが飽和状態でしたが、岩手県内の被災地にはドライアイスが届いていませんでした

東日本大震災では、東日本地区のドライアイス製造拠点の京葉コンビナートが爆発炎上して、ドライアイスの製造が停止しました。
そのために、西日本からの入手を余儀なくされ、「不足=価格高騰」が発生して金が発生する場所へ集中化が見られました。
仙台市民の遺体と岩手県人の遺体でトリアージが行われましたが、これは「人間の価値ではなく葬儀社の動きと行政の能力」により
生じた問題であり、宮城県庁と仙台市、岩手県と岩手県の市町村(多くの市町村役場は被災して機能していない)の歴然とした
能力差により被災遺体は「2次被害を受けました」。(被災地自治体がドライアイス確保をすること自体が不可能に近い)

そのために、ドライアイス壁方法は仙台市の遺体では可能ですが、岩手県の遺体では不可能な方法です。
潤沢な物資や人手、有り余るドライアイスやブルーシートが確保できる被災地では、ドライアイス壁法は可能であり効果が高いのですが
被災地や現場においてこれらの好環境があることはあり得ません。
限られた物、手に入る物、持っている物最小限の物での遺体管理を考えなければ、現場からすれば「机上の理論に過ぎません」。

現場に行かれたこともなく、遺体を見たこともない、遺体の管理もしたことがない指導者や研究者が推奨した方法であっても
遺体は現場にあり、実現不可能な方法では「物資がなく使えません」。
国内各地の自治体は「ドライアイス壁法」(国立保健医療科学院の推奨?)を採用するのかもしれませんが、夏季に大規模災害が
発生をすると、被災遺体の70%は「取り返しのつかない事態になると予測されます」。
そして、力のある東京都民被災遺体は腐敗を免れますが、力と存在感のないのない栃木、茨城、群馬当たりの被災遺体は
「東京都民遺体の犠牲」になる可能性もあります。(ドライアイス割り当てが都民遺体10キロ、栃茨群遺体は2キロ等)

ドライアイスを遺体の胸部や腹部に置く方法は、遺体を凍結させて解剖やエンバーミングには悪影響を生じますが、
「最小限の物で、最大限の効果を発揮する直接法」としては、非日常時である大規模災害やパンテミックでは最も有効です。
少なくとも、災害発生から3日間は「1遺体5s以内/日量」と考える計画が必要です。(岩手県はこれすら実現しなかった)

















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